誰も書かない個人情報保護法の疑問点1
個人情報保護法の担当官時代に考えた論点について、私見を以下に載せます。他の人の言っていることとはずいぶん違うかも知れませんので、気をつけてください。個人情報保護法の解説書はかなりたくさんありますが、「本当にそうなのかい?」と言いたくなるような見解が通説化しています。そのような状況に一石を投じたいなあと思いつつ、お蔵入りしていたものです…。
Q1 「識別」とはなにか。メルアドとハンドルネームだけがデータベース化されていたら?(ネット上ではハンドルネームによって識別され、ネット上の人格がそこに構成されている?)
A 2条1項における個人識別性は、メールアドレスのみであれば通常はないとされている(『個人情報保護法の解説』園部逸夫編集、p50。『逐条個人情報保護法』藤原静雄、p28)。しかし、メールアドレスからは本名や住所の割り出しが困難であるとの一事を以て個人情報でないと判断することは妥当ではない。
本法はプライバシー権を中心とする人格権の保護が目的となっていることは明らかであるから、ネット上において個人の人格形成がなされている場合の個人については、これを保護する必要性がある。例えば、実名を公表せずペンネームで執筆活動を行っている個人の情報をまとめたデータベースを取り扱う事業者があれば、これは、たとえネット上でのみ通用する人格であるとしても(現実世界での人格とは別人格であっても)人格の識別性がある以上、「特定の個人を識別することができる」情報として「個人情報」に該当するというべきであろう。
実例を挙げると、バーチャルネット法律娘真紀奈17歳(http://homepage3.nifty.com/machina/)というのがある。この真紀奈というのは実在しない架空の存在であることは内容から推測できる。しかしながら、これが架空人であるとして一律に保護の対象からはずれるわけではない。すなわち、データベースの性質からこれが架空人であるか否かを判断する必要がある。仮に、事業者が女子高生の名簿としてデータベースを作成した場合には、真紀奈17歳は架空人であり「個人情報」ではない。しかし、事業者が法律に関する情報を執筆する個人の名簿としてデータベースを作成した場合、真紀奈17歳は執筆者のペンネームであり「個人情報」であると考えざるを得ない。ここでの「生存する個人」は、真紀奈17歳こと執筆している大学院生(と思われる研究者?正体は不明)である。