契約書のチェックってどんなことやるの?

弁護士の仕事のうち、けっこうな割合を占める「契約書のチェック」という作業。これはいったいどんな作業なのか、ということは、あまり知られていないので、少し書いてみたいと思います。

おそらく一般の方のイメージでは、
●契約書の体裁を整えること、
●特にあからさまに不利な条項を直すこと
くらいだと思っているのではないでしょうか。

誤解をおそれずにいえば、弁護士が見るところとしてはこれらは後回しなんです。私も弁護士になるまではその程度のイメージしかありませんでした。新人の時に、新人教育係の先輩弁護士からやり方を伝授してもらったときはその奥深さに驚嘆しました。そしてその修正のさじ加減は微妙なものも多く、習得にはかなり時間を要するものでした。

そのノウハウのうち、最も基礎的な部分をここで簡単に説明します。

一番気をつけてみるところは、その契約書で、「依頼者の意図するビジネスがその契約書できちんと実現できるかどうか」 です。

たとえば、大型機械を買う取引をしようとしたらその取引先から契約書のフォームを突きつけられたという事例で考えてみましょう。もし、契約書の中身が、「業務委託契約」だったとか、買う対象がちゃんと書いてなかったとしたらどうでしょう?

そのままサインしてしまって、何かトラブルになったら契約書は何の解決の助けにもなりませんね。なぜなら、機械を買うのですから中身は「売買契約」でないとおかしいですし(契約書のタイトルじゃなくて内容の問題です。契約書のタイトルと中身を法的に分析するとズレてしまっているというのは実はよくある話なのです!)、買う対象がちゃんと書いてなかったら、約束と違う機械が納入されても「契約書と違うじゃないか!」って文句を言えませんね。

だから、最優先事項として「大型機械を買う」というところが明確になっているかというところをまず徹底的に見るんです。具体的には、いつ、どこで、どんな機械を、どうやって引渡しを受けるのか、ということがきちんと書いてあるかどうかを見るわけですね。で、それが依頼者の意図と同じかどうかを依頼者に聞いて確認します。

ときどき「契約書のチェックをお願いしたんだから、契約書さえ見てくれれば良いんだよ」と思っている依頼者がいますが、依頼者から情報をもらわなければ契約書のチェックは無理です!

そして、次に、契約どおり、欠陥のない機械が納入されなかった場合の補償責任とか、納入が遅れた場合の損害賠償責任とか、適用されるべき法律とか、細かいチェックポイントをみていきます。ここも、依頼者の意図と契約書案の中身が同じかどうかをまずチェックし、その上で、通常の取引の常識からいって過剰に不利な部分を修正します。

この辺は民法・商法の体系があらかじめ頭の中に入っていない人には無理な作業です。契約書の内容によっては、税法やその他のさまざまな法律・判例の知識も必要になります。かなりマニアックな知識が必要になるときは、文献を探したり、役所に問い合わせたり、というような作業もやるので、非常に時間がかかってしまうこともあります(そういう時間と手間は、残念ながら依頼者の方にはあまり分かっていただけないことが多いです)。

最後に体裁についてなにかいうべきところがあれば指摘・修正します。

ほかにも各依頼者のビジネスごとに、注意してみるべきポイントが違ってくるので、契約書のチェックは事務員やパラリーガルにやらせるようなわけにはいかないんですね。いくら作業に慣れても、頭の中にビジネスのイメージと法令の体系が作れないと、まともなアウトプットにならないですから、弁護士が丁寧にやるしかないのです。

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