限定承認の場合の訴え提起
相続の限定承認というのがあります。相続財産の範囲でしか相続債務を負わないという制度ですね。
で、過払金がたくさんある状態でなくなった方がいました。その人はあちこちから借りていたので、後から変な借金が出てきたらこまるので、念のため限定承認の手続きをとりました。
さて、その後はどうなるかなのですが、限定承認の申述が受理されると、家庭裁判所で相続財産管理人が選任されます。その相続財産管理人は相続人の中から選任されるので、自分じゃ裁判なんてできない。そこで実際は、その相続財産管理人から依頼を受けて私が過払金の返還請求訴訟を提起するわけです。
ここから先は、専門的なので「へえ、そうなんだ~」くらいの話にしかならないんですが、限定承認というのがいかに特殊かということで書いときます。
ふつうなら、相続財産における債権回収の裁判だったら、相続人全員から委任状をもらうわけですが、今回は、相続財産の管理処分権は相続財産管理人にあるので、相続財産管理人からもらいます。
で、相続財産管理人に対して、支払ってもらいたいわけだから、原告は相続財産管理人かなと思ったんですね。それで、裁判所に電話で確認したら、
「そういう場合は
亡○○相続財産管理人
原告 XX
上記原告訴訟代理人△△
としてください。」
っていわれたんですね。
そうか、とおもってそう書いて出したら、書記官から電話が。
違うんです、と。
昭和47年11月9日の最高裁判例があり、限定承認の場合の相続財産管理人は相続人全員の法定代理人であり、相続財産管理人としての資格では当事者適格を有しないのだ、と。
だから、相続人全員を原告として記載しなきゃだめだとのこと。
なるほど、そうか、と思って原告の表示だけ訂正書を出そうとしたら、あれれ、と。
何があれれかというと、「被告は、原告に対し、金○○円を支払え」と記載していたところを、「原告」って記載は全部「原告ら」にしなきゃいけないなということになり、訴状の全面差し替えをする羽目に。
そうしたら、今度は裁判官から電話があり、「これは金銭債権だから当然分割じゃないですか?」との指摘。
そうなんです。判例では、金銭債権は、相続されると当然に法定相続分に従って分割されてしまうんです。
しかし、限定承認の場合は、相続財産管理人が一括して取り立てたり、弁済したりする権限を持っているので、分割ってのはちょっと違うのではないかと思ったので、裁判官と軽く論戦をしました。
まあ、しかし、裁判官と本気でけんかしても仕方がないわけで、法的性質を決定するのは裁判官だから、最後は従うしかないなあと。
そうなると、
「被告は、原告X1に対し、金○円を支払え。
被告は、原告X2に対し、金○円を支払え。
被告は、原告X3に対し、金○円を支払え。」
というふうに分けて書かないといけないんですねえ。これは本当に手間がかかります。
というわけで、弁護士の手間ってこんなつまんないことで飛躍的に増大するんですねえ。
こんなの本質論じゃないですから、無駄な労力ですよね。