公益通報者保護法の特徴について

以下は、公益通報者保護法の概要について書いたものです。(2005年2月ころに執筆し、日弁連法務研究財団のセミナーで使用したテキストです。)

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公益通報者保護法(平成16年法律第122号、以下「本法」という。)は、2004年6月に公布された。本法は、簡単に言えば、内部告発者(ホイッスルブロアーとも呼ばれる)の保護法であり、勤務先の犯罪行為の事実又は犯罪行為に関連する法令違反の事実を通報した労働者に対する解雇その他の不利益取扱いを禁止する法律である。本法は第一次的には労働者保護法であり、労働法の特別法たる外観を呈するが、究極的にはコンプライアンス推進法となることが意図されている。本法は2年以内に施行されることとなっており、政府は、今のところ2006年4月施行を目指している。
以下、本法の概要と解釈上又は実務上問題となり得る点を述べるとともに、策定中である民間事業者向け通報処理ガイドラインの概略を紹介し、企業のとるべき対応について検討することとする。なお、筆者は2004年9月から内閣府国民生活局企画課課長補佐として本法を担当しているが、本稿中、意見にわたる部分はすべて筆者の個人的見解であり、内閣府の立場を代弁するものではないことをあらかじめお断りしておく。

一 本法の概要
1 本法による公益通報の流れ
本法はおおまかに言って、次のようなことを定めている。すなわち、労働者が、不正の目的でなく、勤務先事業者(「労務提供先」)又は労務提供先の事業に従事する場合におけるその従業員等に、通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしている旨を、①労務提供先等、②所管省庁若しくは警察等、③被害の拡大防止等のために必要と認められる第三者に通報した場合に、一定の状況の下になされた通報は正当なものとされ、雇用主からの解雇は無効とされ、又は不利益取扱いが禁止される(より詳細には添付の説明資料を参照のこと)(注1)。

2 法文上の特徴
 本法を一見すると、成立過程において、公益通報者保護制度創設による密告社会化への危惧や濫用的な通報への懸念と、同制度創設による企業のコンプライアンス推進を叫ぶ声との微妙なバランス調整が図られたことが推測できるであろう。これに対し、日弁連の意見書(注2)や会長声明等(注3)に現れているように、法案はその保護範囲が狭すぎるとの批判が強かったようである。これらの議論に関する理解を深めるため、特徴的な点を紹介する。
(1)公益通報者は「労働者」に限られる。
取締役や社外の弁護士、取引先の経営者は本法では保護されない。保護されるべき労働関係がないからである。本法を批判する論者からは、取引先事業者をも保護する仕組みにするべきとの意見(注4)があったようである。ただし、諸外国の立法例でも、ホイッスルブロアー保護法は労働者(employeeやworker)保護法であるから、我が国のみが特異なわけではない。(注5)
(2)通報対象事実が特定の法律の違反行為(犯罪又は従わなければ罰則が科せられる行政処分の理由となる行為)に限定されている。
本法においては、「通報対象事実」を次のいずれかの事実としている(2条3項)。
① 国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にかかわる法律として別表に掲げるもの(これらの法律に基づく政令・府省令を含む。②において同じ。)に規定する罪の犯罪行為の事実
② 別表に掲げる法律の規定に基づく処分に違反することが①の事実となる場合における当該処分の理由とされている事実等
簡単に言えば、①は、刑法上の犯罪や廃棄物処理法違反の罰則等、別表に掲げる法律に規定される犯罪の構成要件該当事実を指す。②は、当該法律の規定に違反すると主務大臣から勧告がなされ、勧告に従わない場合に命令が出され、命令に従わない場合に刑罰が科されるというような場合に、勧告の理由とされている違反行為の事実と、勧告に従わない事実のいずれもこれに該当するということである。そして、命令に従わない事実(つまり刑罰の構成要件)は①に該当することになる(添付説明資料9頁参照)。
「国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にかかわる法律として別表に掲げるもの」については、本法別表に掲げられている7つの法律(刑法、食品衛生法、証券取引法、農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律、大気汚染防止法、廃棄物の処理及び清掃に関する法律、個人情報の保護に関する法律)のほか、政令の定める407本の法律(注6)となる予定である。これらの法律の選定基準としては、「個人の生命又は身体の保護、消費者の利益の擁護、環境の保全、公正な競争の確保その他の国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にかかわる法律」(別表第8号)であることが必要条件であるが、更に内閣府と各省庁との協議を経て調整がなされる。その結果が政令として閣議決定されることとなっている(2005年3月ころを予定)。
コンプライアンスの取り組みを推進するためには、通報対象事実は、対象法律を限定せず、かつ、犯罪行為等に限るべきでなく、法令違反や法的義務の違反を広く含むべきであり、更に倫理違反も含めるべきだとの反対意見があったようである。しかし、倫理違反も含めるとなると、通報者の解雇の有効性等が裁判で争われたときに何が「倫理」なのかについて明確な基準が存在せず、裁判規範としての明確性を欠くとも考えられる。
なお、本法別表に上述のような選定基準を設ければ、国家的法益に関する罪しかない法律(個人の生命、身体の安全等を保護法益とするような罰則のない法律。公職選挙法違反、政治資金規正法違反等)は、政令で対象法律とできない点についても批判があった。ただし、例えば贈収賄罪等については国家的法益に関する罪であっても刑法上の犯罪である以上、通報対象事実となり得ることに注意を要する。
また、企業法務の立場から重視すべきは、独禁法や景表法等の競争法分野は「公正な競争の確保…にかかわる法律」として、悪臭防止法、水質汚濁防止法、家電リサイクル法(特定家庭用機器再商品化法)等の公害や生活環境の保全等の環境分野については「環境の保全…にかかわる法律」として、それぞれ多数の法律が政令案に掲げられている点である。本法の対象法律である414本以外にも多数の遵守されるべき法律は存在するが、このリストを眺めてみれば、代表的な法律はこの政令でかなり網羅されているとの印象を抱くであろう。
(3)「通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしている」旨の通報でなければならない。
 「生じ」とは、過去に生じたか、又は現在生じている(現在も事実が継続している)ことを意味する。(この点、この文言は「生じている」との意味しかないとの見解を耳にしたことがあるが、筆者はそれは誤解であると考える。)
 批判が強いのは、「まさに生じようとしている」という部分である(注7)。生じるおそれでは足りず、切迫性が要求されているため、将来の事実に関しては該当しにくいからである。
(4)企業内部への通報であれば、通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると「思料する場合」に保護され、行政機関への通報であればそのように「信ずるに足りる相当の理由がある場合」に保護されるが、それ以外の第三者(マスコミ等)への通報であれば、そのように信ずるに足りる相当の理由があり、かつ、内部通報がうまく機能しないような場合(3条3号イ~ホ)で、その第三者が通報対象事実の発生又はこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者でなければ保護されない(3条3号柱書き)。
 この第三者への通報の保護要件はかなり厳しく、過去の犯罪事実等はほとんど通報対象にはならず、近い将来確実に犯罪事実等が発生しそうであるか、現在被害が拡大中であるときに、それを食い止めるために必要と認められるような第三者を通報者が見つけられないのではないかとの批判がある。軽々しく第三者に外部通報することを認めると、企業に思わぬダメージを与えてしまうおそれもあるため、そのように制限されている。したがって、本法のスキームの中では、外部通報はしにくいことになる(もっとも、通報者が本法では保護されないことを承知で公益のために外部通報することはあり得る)。これは、通報しやすい企業内部への通報を通じた自浄作用を強く期待したスキームで公益通報制度をスタートさせようという趣旨である。
(5)公益通報を受けた事業者にはディスクロージャーの義務はない。
 職員等から内部通報がなされた企業は、通報後に調査を行った上で是正措置や再発防止策をとることは求められている(3条3号イ~ホ、9条)にしても、少なくとも本法上は、どんなに重大な犯罪であったとしても内部通報で知らされた内容や調査して得た情報を顧客や株主に公表する義務を負わない。証取法等の個別の規制法や企業の危機管理意識にゆだねられたものといえる(ただし、事件を隠蔽することは大変なリスクを伴う)。

3 「通報対象事実」の概念
ところで、「通報対象事実」という概念はやや難解である。しかし、通報者にとっては、本法による保護を受けるために非常に重要な部分であるので、通報者が通報時に「通報対象事実」をどの程度特定する必要があるのかについて、会社が顧客データを定期的に名簿屋に渡していたという個人情報保護法違反の事実について従業員が通報する場合を想定して以下に論じておくこととしたい。

<参照条文> 
個人情報の保護に関する法律
(第三者提供の制限)
第二十三条 個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない。
一~四 略
2~5 略
(勧告及び命令)
第三十四条 主務大臣は、個人情報取扱事業者が第十六条から第十八条まで、第二十条から第二十七条まで又は第三十条第二項の規定に違反した場合において個人の権利利益を保護するため必要があると認めるときは、当該個人情報取扱事業者に対し、当該違反行為の中止その他違反を是正するために必要な措置をとるべき旨を勧告することができる。
2 主務大臣は、前項の規定による勧告を受けた個人情報取扱事業者が正当な理由がなくてその勧告に係る措置をとらなかった場合において個人の重大な権利利益の侵害が切迫していると認めるときは、当該個人情報取扱事業者に対し、その勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができる。
3 略
第五十六条 第三十四条第二項又は第三項の規定による命令に違反した者は、六月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。

(1)2条3項1号該当性(構成要件該当事実)
個人情報保護法23条1項は個人データを本人の同意なく、第三者に提供することを原則として禁止している。しかしながら、本条項の違反は同法34条の各要件を充たせば勧告の対象となるだけであって、同法23条1項違反の罰則は規定されていない(個人情報保護法は、違反を行った個人情報取扱事業者に対し、主務大臣が勧告をし、勧告に従わないときに命令をし、命令に従わない場合にはじめて刑罰(同法56条)を科す間接罰の仕組みを採用している)。同法34条2項の規定による命令に違反した事実(同法56条に規定する構成要件該当事実)はないので、通報をすることはできない。
(2)2条3項2号(括弧内を除く)該当性
 次に、「別表に掲げる法律の規定に基づく処分に違反することが前号に掲げる事実となる場合における当該処分の理由とされている事実」(同項2号)を通報対象事実とすることが考えられる。この事例に当てはめると、「個人情報保護法34条2項の命令に違反することが同法56条違反の罪の犯罪事実となる場合における当該命令の理由とされている事実」、つまり「命令理由事実」が通報対象事実である。ここで、通報者は果たして「命令理由事実」をすべて網羅するような事実を通報しなければ保護されないのか、という問題が生じる。
本事例の命令は、「①勧告を受けた個人情報取扱事業者が正当な理由がなくてその勧告に係る措置をとらなかった場合において、②(主務大臣が)個人の重大な権利利益の侵害が切迫していると認めるとき」に出されるのであるから、これが命令理由事実である(同法34条2項)。ここで①の事実に加えて、②の事実である主務大臣が「個人の重大な権利利益の侵害が切迫していると認める」状況にあるという事実を含めて通報されていなければ、通報者は「通報対象事実」(3条各号)を通報した者として解雇の無効等の保護を受けられないとすれば、事実上通報がほとんど不可能となるのではないかということが問題となるのである。
この点筆者は、およそ内部者であっても職場で知り得た事実が事件全体を網羅することは常に想定はできないし、事業者にとって通報対象事実はその後の調査のための端緒にすぎないから、本法3条各号の規定する「通報対象事実」とは、2条3項1号又は2号に規定する事実のうち主要部分(他の犯罪行為等と区別可能な程度)であれば足りると考えている(注8)。そして、主務大臣が「個人の重大な権利利益の侵害が切迫していると認める」状況にあるという事実は、主要部分ではないと考えるべきである。なぜなら、民事保全の申立てにおいて保全の理由(被保全権利)と必要性の両方が要件となっている(民事保全法13条)のと同様に(あるいは逮捕には逮捕の理由と必要性が要求されるのと同様に)、およそ処分が行われる際には処分の理由及び必要性があることが前提であり、そのような整理をすれば、②は実質的には処分の必要性についての要件であって処分の理由の本質ではないと考えられるからである。
したがって、本事例では、「勧告を受けた個人情報取扱事業者が正当な理由がなくてその勧告にかかる措置をとらなかった事実」が通報内容に含まれていれば足りる。しかし、本事例ではいまだ勧告が出ておらず、「勧告にかかる措置をとらなかった」とはいえない。
(3)2条3項2号括弧内の該当性
 さらに、2条3項2号の「通報対象事実」には「当該処分の理由とされている事実が同表に掲げる法律の規定に基づく他の処分に違反し、又は勧告に従わない事実である場合における当該他の処分又は勧告等の理由とされている事実を含む」(2号括弧内)とされているので、これを本事例に読み替えると、「ア 当該命令の理由とされている事実が個人情報保護法34条1項の勧告に従わない事実である場合における イ 当該勧告の理由とされている事実」、つまり「勧告理由事実」を通報対象事実にしてもかまわないということになる。
この場合、アについては、上で指摘したのと同様に、「当該命令の理由とされている事実」(命令理由事実)の本質は、「勧告に従わない事実」であるといえるであろう。
さて、イの勧告理由事実は、34条1項によれば「a個人情報保護法23条に違反し、かつ、b主務大臣が個人の権利利益を保護するため必要があると認める状況にあること」ということになるが、前述のように私見ではその主要部分で足りるので、個人情報保護法23条違反の事実(本人の同意を得ないで個人データを第三者に提供した事実)が含まれていれば「主務大臣が個人の権利利益を保護するため必要があると認める状況にあること」を通報しなくても通報対象事実として十分である。そして、おおよその日時・場所等が特定できれば第三者提供の具体的態様が不明でもかまわない。
以上のように、通報者保護要件としての「通報対象事実」とは、かなり緩やかな要件として捉えるべきであり、2条3項に厳格な定義規定があるものの、当該通報で摘示する事実内容に「通報対象事実」の主要部分が含まれていれば3条各号の適用を受けるに十分であると筆者は解している(注9)。
ちなみに、本事例の場合は、会社の個人データに関する安全管理措置が不十分だった(漏洩のチェック体制の甘さがあった)という内容(同法20条違反)の通報をすることも目的外利用をしているという内容(同法16条違反)の通報をすることも可能であり、通報者の選択にゆだねられているといえる。

4 本法の裁判規範としての価値
 従来から、解雇については、判例法上、客観的に合理的理由を欠き、社会通念上相当として是認することができない場合にのみ、権利の濫用として解雇が無効とされてきた(注10)。平成15年改正による労働基準法18条の2も、全く同じ要件で解雇を無効とする旨規定している(注11)。
通報者が解雇無効を主張して民事訴訟を提起した場合、仮に本法がないとすれば、使用者の行った解雇が、「客観的に合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」か否かが争われることになる。しかし、「客観的に合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」か否かはいわゆる規範的要件であり、「客観的に合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」ことの評価根拠事実と評価障害事実を双方が主張し合う必要があるため、どうしても時間と手間がかかってしまうという難点があったように思われる。
 本法は、労働基準法18条の2又は民法1条3項のような一般法理(解雇権濫用法理)によって従前から保護されてきた通報者がいることを前提にしつつ、そのような通報者のうち、特定の通報者については本法の明文によって明確な要件の下で確実かつ容易に保護される制度として位置づけられる(本法6条参照)。
 本法は、3条各号に該当する公益通報をしたことを理由とする解雇が無効とされる旨規定することで、規範的要件というオープンな要件事実による不毛な攻撃防御というやっかいな訴訟構造を、かなりの部分についてクローズドで立証容易な要件事実による攻撃防御の構造に置き換えることによって、簡易・迅速な救済の場を提供している点に意義がある。
 本法は、外部通報の保護要件が厳しくて使い物にならないと非難を受けてはいるものの、現実の訴訟の場になれば、おそらく本法3条各号による解雇無効と、労働基準法18条の2による解雇無効を並列的に主張するという形になると思われるため、実務上の影響は大きいであろう。
 筆者は、本法の特定の要件を充たすことができないために本法の直接適用に難がある事案においても、本法の類推適用によって、本法による労働者保護の趣旨を及ぼすことが妥当であると考えている。その意味で、裁判所に対しては、本法の類推適用をする実務が定着するまでの間は、一般法理の主張立証に(念のために)費やそうとする代理人の膨大な労力の無駄を回避するため、類推適用を認めるつもりがあるなら早めにその旨を開示して争点を絞っていくような訴訟指揮を心がけることを望みたい。
 なお、労働審判法が2004年5月に公布されており、2006年4月の本法の施行と同時に施行されることが予定されているので、解雇等の不利益を受けた通報者の迅速な救済が期待される。

<注釈>
1 本法の解説としては、上村秀紀(2004)「公益通報者保護法の解説」NBL790号13頁、浜辺陽一郎(2004)『内部通報制度』東洋経済新報社等を参照されたい。
2 公益通報者保護法案に関する意見書(2004年2月20日)
http://www.nichibenren.or.jp/jp/katsudo/sytyou/iken/04/2004_11.html
3 政府提出の「公益通報者保護法案」の参議院での抜本修正もしくは廃案を求める会長声明(2004年5月25日)
http://www.nichibenren.or.jp/jp/katsudo/sytyou/kaityou/00/2004_12.html
4 雪印食品の牛肉偽装事件で取引停止、倒産の憂き目にあった西宮冷蔵(株)の事件は、国会の質疑にも取り上げられ、内部情報に接し得る者は、その立場を問わず、 基本的には何人でも保護されるべきとする発言があったし、民主党案は取引事業者をも保護の対象にしていた。
5 日本の公益通報者保護法は、英国公益開示法(Public Interest Disclosure Act 1998)を参考にしている。同法については、柏尾哲哉(2004)「英国における公益通報者保護の現状と課題」自由と正義55巻4号80頁参照。
6 2004年12月に対象法律案が公表され、パブリックコメントに付された。添付資料参照。これを受けて日弁連が意見書を出している。内閣府国民生活局の「政令で定める公益通報者保護法の対象法律 (案)」に対する意見書(2005年1月21日)
http://www.nichibenren.or.jp/jp/katsudo/sytyou/iken/05/2005_4.html
7 例えば、浅岡美恵(2004)「あるべき公益通報者保護制度について」自由と正義55巻4号106頁以下。
8 本法の文言に忠実な立場をとった場合には、3条各号が「通報対象事実」との文言を使用している以上は、3条各号で保護される通報の内容には2条3項で定義される「通報対象事実」と全く同じ内容を含んでいなければならないと解することもできようが、そうなると、通報者は、構成要件該当事実の客観面(実行行為、結果、因果関係)のみならず、主観面(構成要件的故意や目的犯の目的)まで遺漏なく通報しなければならないことになる。しかし、そのような見解では断片的な情報しか持っていないような通常想定される通報を、本法に基づく公益通報として保護することは相当困難になるといって良いように思われる。2条3項各号による「通報対象事実」の定義は、通報すべき事実の外枠を示したものであると考えるのが素直であろう。
9 浜辺・前掲67頁には、処分理由事実を通報対象事実とするには、勧告や命令等の処分が前提としてなされることを要する旨の見解が述べられているが、本法はいかなる通報に要保護性があるかという観点から解釈されなければならない。筆者は「処分の理由とされている事実」とは、法律上処分権限の発生理由とされている事実を意味すると考えている。これに対し、浜辺説は当該処分において実際に理由とされた事実のみを指すという。
10 最判昭和50年4月25日民集29巻4号456頁ほか。
11 労基法18条の2「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」との判例法理そのままの規定を追加する改正が平成16年に施行された。

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