取調べ適正化指針(2008年1月)警察庁
これは警察庁のサイトにあったんですが、2008年5月1日に最高検察庁が公表した「取調べに関する不満等の把握とこれに対する対応について」「取調べに当たっての一層の配慮について」がみつかりません…。
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平成20年1月
警察庁
警察捜査における取調べ適正化指針
我が国の刑事手続において、被疑者の取調べは、事案の真相解明に極めて重要な役割を果たしていることは、論を俟たないところである。しかしながら、昨今、その在り方が問われる深刻な無罪判決等が相次ぎ、取調べを始めとする警察捜査における問題点が厳しく指摘された。警察としては、これらの点について深く反省し、今後の捜査にいかすべき事項を抽出し、再発防止に向けた緊急の対策を講じてきたところであるが、国民からの批判は依然として厳しく、警察捜査に対する信頼が大きく揺らいでいる。
また、平成21年5月までに導入される裁判員裁判制度の下では、一般国民から選ばれる裁判員が刑事事件の審理に加わり、警察捜査の結果が直接国民の視点から検証されることとなる。したがって、裁判員の心証形成に資するという観点からも、警察における捜査手続、とりわけ被疑者の取調べの在り方についても、一層の適正性の確保が求められている。
このような諸情勢を踏まえ、国家公安委員会は、警察捜査における取調べの一層の適正化を喫緊の課題と認め、全国警察を挙げた取組みが必要であるとして、平成19年11月1日、「警察捜査における取調べの適正化について」を決定した。
警察庁は、都道府県警察における捜査の実態を十分に勘案し、来るべき裁判員裁判への適合性をも念頭に置きつつ、捜査における取調べの一層の適正化について対策を講ずることとなった。
警察庁は、この決定に基づき、鋭意、対策の検討を進め、このたび、警察が当面取り組むべき施策を「警察捜査における取調べ適正化指針」として取りまとめた。この指針にのっとり、取調べの適正化に向けた施策を迅速かつ着実に実施し、警察捜査に対する国民の信頼を確かなものとするよう全力を尽くしていく。
記
1 取調べに対する監督の強化
(1) 捜査部門以外の部門による取調べに関する監督
ア警視庁及び道府県警察本部の総務又は警務部門に取調べに関する監督を担当する所属(以下「本部監督担当課」という。)を置くとともに、本部監督担当課及び警察署の総務又は警務部門に取調べに関する監督を担当する監督担当者を置く。
イ取調べに関する監督を的確に行うことができるよう、次に掲げる取調べに係る不適正行為につながるおそれがある行為を監督の対象となる行為(以下「監督対象行為」という。)として国家公安委員会規則に類型的に規定する。
(ア) 被疑者の身体に接触すること(やむを得ない場合を除く。)。
(イ) 直接又は間接に有形力を行使すること。
(ウ) 殊更不安を覚えさせ、又は困惑させるような言動をすること。
(エ) 一定の動作又は姿勢をとるよう強く要求すること。
(オ) 便宜を供与し、又は供与することを申し出、若しくは約束すること。
(カ) 被疑者の尊厳を著しく害するような言動をすること。
(キ) 一定の時間帯等に取調べを行おうとするときに、あらかじめ、警視総監若しくは道府県警察本部長(以下「警察本部長」という。)又は警察署長の承認を受けないこと。
ウ罪種や任意・強制の別を問わず、取調べ室等において行われる被疑者の取調べについて、監督対象行為の有無を確認すること等により、取調べに関する監督を行う。
エ取調べに関する監督は、大要次のような方法により行うこととする。
(ア) 取調べ状況の把握
a 被疑者を取調べ室又はこれに準ずる場所において取り調べたときは、捜査主任官は、本部監督担当課に対し、速やかに、取調べ状況報告書(犯罪捜査規範(昭和32年国家公安委員会規則第2号)第182条の2第1項に規定する取調べ状況報告書をいう。以下同じ。)等の記載内容を報告する。
b 警察署に置かれる監督担当者は、被疑者等からの苦情の申出を受けるとともに、当該警察署において行われる被疑者の取調べの状況を随時確認し、又は必要により所要の調査を行い、その結果を本部監督担当課に報告する。
c 本部監督担当課は、警察署等に対し定時又は随時の巡察を行い、監督対象行為の有無を中心とする被疑者の取調べの外形的状況を確認する。
d 取調べについて苦情の申出があったときは、申出者の氏名、連絡先、苦情の内容等を書面に記録するとともに、苦情処理に係る所定の手続に従い、速やかに都道府県公安委員会(以下「公安委員会」という。)又は警察本部長に報告する(報告の内容は、すべて本部監督担当課においても把握する。)。
(イ) 調査
本部監督担当課は、上記(ア)により、監督対象行為がなされた可能性があると認めたときは、関係書類の閲覧、捜査主任官等からの報告聴取、取調べの外形的状況の確認、取調べ官等からの報告聴取、被疑者との面接等を実施し、監督対象行為の有無を確認する。
(ウ) 監督対象行為を認めた場合の措置
a 監督担当者は、調査過程において監督対象行為を現に認めたときはこれを中止させることができることとする。
b 調査結果は書面に記録するとともに、本部各部指導担当部署又は監察部門に通報し、業務上の指導や懲戒処分に活用する。
c 取調べに関する監督の実施状況については、定期的又は随時に公安委員会に報告する。
(2) 被疑者の取調べ過程・状況に関する書面による記録制度の充実
取調べ状況報告書は、身柄を拘束されている被疑者又は被告人を取調べ室又はこれに準ずる場所において取り調べたときに作成することが義務付けられているところ、原則として、罪種や事案の軽重を問わず、身柄を拘束されていない被疑者又は被告人を取調べ室又はこれに準ずる場所において取り調べたときにも作成することを義務付ける。
2 取調べ時間の管理の厳格化
(1) 取調べは、やむを得ない理由がある場合のほか、深夜に又は長時間にわたり行うことを避けなければならない旨を犯罪捜査規範に規定する。
(2) 次に掲げる場合には警察本部長又は警察署長の事前の承認を受けなければならないこととするなど、取調べ時間の管理に関する所要の事項を国家公安委員会規則に規定する。
ア午後10時から翌日の午前5時までの間に取調べを行おうとする場合
イ休憩時間等を除き、1日当たり8時間を超えて取調べを行おうとする場合
3 その他適正な取調べを担保するための措置
(1) 取調べ室の設置基準の明確化
取調べ環境を国民に対して明確にするため、取調べ室の設置基準を犯罪捜査規範に規定する。
(2) 取調べ状況の把握を容易にするための施設整備の一層の充実
取調べ状況を外形的に把握することができるようにするため、すべての取調べ室に透視鏡等の設置を図るとともに、取調べ室への入退室時間を電子的に管理するシステムや取調べ状況報告書等の記載内容を電子的に把握するシステム等の整備を推進する。
4 捜査に携わる者の意識向上
(1) 適正捜査に関する教養の充実
新たに捜査に従事することとなる警察官に対しては、原則として、各都道府県警察の警察学校において部門別任用科課程を実施し、捜査員として必要な専門的知識・技能の修得を図っているところであるが、司法制度改革等に的確に対応し適正な捜査を推進するため、同課程におけるカリキュラムを見直し、適正捜査に関する教養の充実を図る。
また、適正な取調べを推進する観点から、取調べに係る指導的立場にある警察官に対する教養の充実を図る。
(2) 具体的事例に基づいた実践的な教養の実施
警察大学校特別捜査幹部研修所において、取調べを始めとする各種捜査手法の実践的な教養の在り方について研究し、その成果を都道府県警察に還元し、活用を図る。
(3) 技能伝承官の活用
次代を担う捜査員に対し、取調べを始めとする各種捜査の手法や適正捜査の在り方を的確に伝承するため、取調べ等に関し卓越した技能を有する捜査員については、退職後においても非常勤職員として採用し、又は再任用することにより、技能伝承官として活用を図る。
(4) 弁護士を始めとする法曹関係部外講師の積極的な招聘
都道府県警察における教養では、従前から、教養内容に応じ、部外講師の招聘が行われてきたところであるが、取調べに関する教養に当たっては、これまで以上に弁護士等の法曹関係部外講師を積極的に招聘し、弁護士等からみた警察捜査、とりわけ取調べについての問題意識を醸成し、適正捜査に係る意識の向上を図る。
(5) 人事上の措置
ア勤務成績の処遇への的確な反映
能力、実績に応じた人事管理を推進するため、取調べ官等職員の勤務成績の昇任、給与等の処遇への一層的確な反映に努める。
イ積極的な表彰の実施
取調べ官等職員が旺盛な士気を維持しつつ職務に精励するよう、取調べ官等職員の功労を適切に評価し、表彰を一層積極的に実施する。
ウ懲戒処分に係る行為類型の明確化
監督対象行為に関し、懲戒処分の対象となり得る行為の類型を明確化する。
エ監督対象行為を認めた場合の厳正な対処等
監督対象行為を認めた場合は、諸要素を総合的に考慮して、懲戒処分を始めとする厳正な措置を講ずるほか、取調べの一層の適正化を図る観点から、所要の業務上の指導を実施する。
オ能力及び実績に応じた適材適所の人事配置の推進
取調べ等の捜査活動を適正かつ能率的に実施するため、職員の能力及び実績を的確に把握し、より一層客観的かつ公正な勤務評定を行うよう努めるとともに、その結果に応じ、適材適所の人事配置を推進する。