死亡から3か月過ぎた相続放棄
死亡から6か月余りが過ぎてからの相続放棄申述が、先日受理されました。被相続人が遺した債務は数億円ありましたから、受理されるとされないでは依頼者のその後の人生に大きな影響があります。
死亡を知った後3か月(「熟慮期間」といいます。)過ぎてからの相続放棄の申述は原則として受理されませんが、例外的に最高裁が示した基準は、相続の対象となった財産があることを知ってから3か月以内の相続放棄申述、ということです。
例えば、「オヤジには借金はない」、と信じていても、「オヤジの住んでた家は持ち家だったと知っていた」、というだけで、3か月過ぎた後の相続放棄は認められない、とされています。
http://www.courts.go.jp/tokyo/about/koho/kasaidayori04_05.html
一時期は3か月の熟慮期間を過ぎていても、わりと広く救済される例が目立ったのですが、近年は非常に厳格な運用に戻っていると言われており、先月も、知り合いのベテラン弁護士と偶然裁判所でお会いした際、相続放棄申述を受理してもらえなかったとのぼやきを聞いたばかりでした。
そんな厳しい基準が裁判所の公式ウェブサイトに載っている状況で、「オヤジがプラスの財産を持っていることは知っていた」、「オヤジが借金の連帯保証をしていることは知らなかった」という事案で、死亡から6か月以上経っており、半分もうだめかなあと思いながらも、相続放棄の申述が遅くなった事情を最高裁の理屈に合わせて構成し直してなんとかやってみたところ、相続放棄申述がめでたく受理されました。
本件の特殊性は、そのオヤジさんの公正証書遺言が存在し、その息子さん(依頼者)以外の相続人に債務を含めた相続財産をすべて相続させる内容だったというところにあります。依頼者は相続財産というものが存在することは知っていたのですけれども、自分が相続する財産はプラスもマイナスも何にもないと信じていました。そのような遺言は被相続人の死後、まもなく開示されて、依頼者も知っていました。本件は、遺言を知った時点から起算して3か月を超えていた事案です。
おそらく、裁判所としては、自分が相続する財産は何にもない、という遺言を見た依頼者が、「念のために相続放棄をしておこう」などと考えることは事実上あり得ない、ということを重視して、遺言を知った時点は3か月の熟慮期間の起算点にはしませんでした。
本来、相続債務というのは、法定相続分に従って当然に分割されますから、法律を熟知した相続人を仮定するならば、「遺言で相続分を指定できるのはプラスの財産だけだ。債務については当然分割であり、遺言で指定できないから、オレが相続する分もあるかもしれない。どうせプラスの財産はもらわないんだし、この際、マイナスの財産があるかもしれないから念のために相続放棄の申述もしておこう!」と考える可能性はあります。
しかし、裁判所は、「相続人はそのように法律を熟知した上で用心深く考えるべきである。」との立場は取らないで、マイナスの財産が実際にあると判明した時点からの3か月以内なら受理するとの立場を取りました(名古屋高決平成19年6月25日家月60-1-97と同じ枠組みでの判断です)。
本件から得た教訓としては、裁判所の公式ウェブサイトで明らかに「ダメ」と書かれている事案でも、素人判断で諦めずに、弁護士に一度相談してみるべし、ということだと思います。
相談した弁護士は、最高裁判例解説、家裁月報平成21年1月号、判タ1144号72頁なども、参照しながら適切に処理してくれるであろうと思います。